Research
研究内容
私たちの研究室では、
細胞スケールにおける構造的秩序と環境応答の統合的理解を目指して
研究を進めています。
細胞内には、細胞骨格ネットワークのパターンやオルガネラの配置など、高度に秩序立った構造が存在します。一方で、細胞は光や機械的刺激などの外界からの多様な環境変化に応じて柔軟に応答します。このような秩序の安定性と応答の可塑性を両立させる仕組みを生命システムの基本原理の一つととらえ、可視的・定量的に記述し論理的に理解することを、研究の出発点としています。
具体的には、細胞骨格ネットワークの形成やオルガネラの配置制御、さらには細胞分裂や細胞伸長といった構造変化を伴う動的プロセスについて、空間的・時間的秩序の形成原理と、環境刺激に対する応答の動態を、ライブセルイメージングと画像解析技術を基盤として明らかにすることを目指しています。細胞現象を再現性よく定量記述することにより、生命の自己組織化や可塑性の背後にある普遍的な規則性の抽出と、細胞スケールにおける秩序形成と環境応答の統合的理解に取り組んでいます。
研究対象として植物細胞を選んでいるのは、可視性や操作性に優れると同時に、環境応答性に富み、細胞レベルでの変化が個体の成長や形態形成に直結するモデルであるためです。植物は、細胞内秩序と環境応答の関係性を解析するうえで極めて適した実験系であり、また動物細胞との比較を通して、生命システムにおける普遍性と多様性の両面を検証する手がかりともなります。
ライブセルイメージング技術の高度化と画像の定量解析は、当研究室の研究を支える中核的な柱です。共焦点レーザー顕微鏡や超解像顕微鏡を用いて、細胞骨格やオルガネラ、シグナル分子の動態を高時空間分解能で記録しています。蛍光プローブやバイオセンサーの活用により、アクチン繊維や微小管などの細胞骨格、細胞内輸送、細胞分裂の進行、シグナル応答など、さまざまな細胞プロセスを可視化し、構造と機能の関係性を明らかにしてきました。特に、細胞骨格ネットワークの形成過程や気孔開閉に伴う細胞内構造の再編成を詳細に記述する研究を通じて、秩序形成と応答の相互関係を定量的に解析する基盤を築いてきました。
さらに近年では、機械学習を含む画像情報科学の手法も積極的に導入し、表現型のハイスループット解析や構造パターンの自動抽出・分類などを通じて、仮説生成と理論構築を支える解析基盤の拡張に取り組んでいます。あわせて、従来技術の創造的な再利用も重視しており、他分野で成熟した装置やアルゴリズムを私たちの研究に応用することで、技術が駆動する研究の拡張性を追求しています。こうした試行と工夫の積み重ねにより、従来は観察できなかった現象を可視化・定量化し、そこから新たな問いを引き出し、再び技術開発へとつなげていく好循環の研究体制を構築します。
そのような研究環境において、研究室メンバーがそれぞれの関心や経験をもとに自律的に問いを立て、柔軟に専門領域を横断しながら思考と構築を深めていくことを重視しています。実験と解析、観察と仮説の往還を通して知をかたちにし、対話と共創を通して相互に触発し合う場として、知的に開かれた研究室を目指しています。
「超域生命科学 (Transdisciplinary Bioscience)」とは?

超域生命科学分野(Transdisciplinary Bioscience Laboratory)」は、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻において、学融合を中核理念として設けられた研究分野です。本研究室は、学融合の理念のもと、従来私たちが取り組んできた「画像生物学」の概念を拡張・発展させて「超域生命科学」を体現し、生命科学の新たな潮流の源泉を生み出すことを目指しています。
私たちの考える「超域」とは、単に複数の分野を横断することではありません。生命現象を理解しようとするとき、生命科学のみならず、情報科学、数理科学、物理科学、化学、画像工学などの異なる学問領域の境界にこそ真に重要な問いが噴出する源泉がある、という考え方を指しています。単一の分野の概念や記述では捉えきれない現象に直面したとき、その「分野の境界」に正面から取り組むことが、超域生命科学の基本的な姿勢です。
また、超域生命科学は、研究の方法論であると同時に、大学院教育の思想でもあります。本研究室では、学生一人ひとりが自ら問いを立て、観察・解析・検証を往復しながら、必要に応じて異なる分野の知や技術を取り込み、自分自身の研究を構想・実装していく過程を重視しています。専門を深めることと、専門の枠にとらわれずに考えることの両立を通じて、将来にわたり自律的に研究を展開できる研究者を育むことを目指しています。
超域生命科学とは、分野の境界に立ち、そこで生命を見つめることで新しい潮流の源泉を探求する、まさに「知の冒険」です。本研究室は、研究と教育の両面から、超域生命科学を実践してまいります。